福岡高等裁判所 昭和44年(ネ)592号 判決 1970年8月04日
控訴人 小倉信用金庫
右訴訟代理人弁護士 木下重範
被控訴人 北九州市
右訴訟代理人弁護士 藤本正徳
被控訴人補助参加人 高島木材産業株式会社
右訴訟代理人弁護士 西村文次
被控訴人補助参加人 不二コンクリート株式会社
被控訴人補助参加人 日本ヒューム管株式会社
右補助参加人二名訴訟代理人弁護士 有村武久
被告知人 飯田産業株式会社
<外七名>
主文
本件控訴を棄却する。
控訴人の当審での予備的請求をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
<全部省略>
理由
一、主たる請求について。
被控訴人が、訴外三村建設に、控訴人主張のとおり本件工事(1)ないし(5)を請負わせたことは、その代金支払日の点を除いて当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、その代金支払日は、本件工事(1)については検査に合格し工事引渡後政府契約の支払遅延防止等に関する法律その他関係諸規定により支払う旨約定され、本件工事(2)、(3)については、検査終了後請求書を受理した日から四〇日以内に支払う旨約定されたことが認められる。
次に<証拠>によると、控訴人は、三村建設に対し、本件工事の資金等として金員を貸し付けていたものであるところ、三村建設が右借受金の支払のため、控訴人に対し、昭和四一年三月八日、本件工事(1)の工事代金六八五万円の債権を、次いで同月二九日、本件工事(2)、(3)の各完工工事代金債権を譲渡したこと、右(1)工事については昭和四〇年一二月二五日に内金二〇五万五、〇〇〇円が支払われ、更に中途で工事変更により代金が金二七万五、〇〇〇円減額されたので結局右債権譲渡当時の工事残代金は金四五二万円となっており、また、右債権譲渡当時の(2)工事の出来高は金七一万八、〇〇〇円、(3)工事の出来高は金三一万円であったことを認めることができ、これに反する証拠はない。そして、被控訴人が昭和四一年三月二八日右本件工事(1)の代金債権の、同月二九日右本件工事(2)、(3)の代金債権の、各譲渡通知を受けたことは当事者間に争いのないところである。
そこで、被控訴人の抗弁につき判断するに、<証拠>によると、本件(1)ないし(3)の請負契約には、いずれも工事代金債権の譲渡を禁止する旨の特約があったことが認められ、これを左右するに足る証拠はない。
ところで、控訴人は、本件工事代金債権を譲り受ける際、右譲渡禁止の特約の存在を知らなかったので、被控訴人は右特約をもって善意の第三者である控訴人に対抗できない旨抗争する。よって検討するに、<証拠>を総合すると、
「被控訴人が請負契約等の契約を締結する場合には、被控訴人市の規則にもとづき、契約の履行を確保し、或いは代金支払事務の円滑適正を図る等の趣旨から請負人等契約の相手方が契約上の権利義務を他に譲渡できない旨の特約が必ずなされており、右は被控訴人市に合併する前の小倉市等いわゆる北九州五市においても同様であったし、又七大市等他の公共団体においても同様契約に際しては契約上の権利義務の譲渡禁止の特約がなされているのが一般であること、そして、被控訴人市との請負契約では、右譲渡禁止の特約が印刷記入された契約書用紙を使用して契約書を作成するのが通例であり、本件三村建設との間の各請負契約も右方式によりなされたこと、三村建設は土建業者であって、昭和二六年頃から被控訴人市(昭和三八年二月北九州五市合併前は小倉市より)の土木建築工事を請負ってきたものであり、昭和三九年頃から、金融等を業とする控訴人より工事資金を借り受けるようになったが、右借受けにあたっては、三村建設は、被控訴人市の各工事担当の課長もしくは係長が作成した工事代金立会払承認書(各工事代金の支払を、三村建設と控訴人両者立会のうえでなすことを承認する趣旨の書面)等を控訴人に持参し、控訴人はこれにより右工事代金を実質上担保として三村建設に融資をしていたもので、控訴人が昭和四一年三月頃までの間に十数回に亘ってなした貸付は不動産担保の場合を除き概ね右立会払による債権確保の方法でなされ、本件(1)ないし(3)の各請負契約に関しても、同じく工事代金立会払承認書が控訴人に差し入れられ、控訴人から三村建設に対し工事資金の貸付がなされていること、右いわゆる立会払というのは、被控訴人において正式に認めている制度ではないが、実際上工事請負人やその債権者の便宜を図るため、請負人の願出により、工事代金支払をその債権者立会の上でなすべき旨を被控訴人市の各工事担当者において承認し、右承認がなされると、代金支払の際には該債権者にその旨連絡がなされる仕組であり、債権者は右支払に立ち会うことによって、請負人が被控訴人から受領した工事代金より直ちに債権の回収を図ることができるというもので、工事代金債権の譲渡が禁止されている結果代金債権の譲受による債権確保の方法がとれないため、いわばこれを補う方法として、被控訴人の事務担当者の了解のもとに工事請負人、その債権者らにより案出されたものと考えられること、控訴人も、請負人が私企業から請負った工事の資金を融資する場合には、担保として該工事代金債権の譲渡を受けるのを例としており、控訴人の貸付責任者としても、いわゆる立会払の方法よりも債権譲渡を受ける方が債権確保の効力が確実であることを認識していたこと、それなのに控訴人は、被控訴人等公共団体が注文主の場合にはいわゆる立会払の方法で工事資金の融資をしてきたもので、特に、本件工事に関連する貸付に際しては、すでに三村建設の経営状態が悪化し控訴人もそのことを感知しており、しかも他に充分な担保物件もなかった(控訴人に差入れられていた抵当不動産の担保価値に殆ど匹敵する額の貸付がすでになされていた)にも拘らず、あえて債権譲渡を受ける方法によらず立会払の方法で貸付をしていること、なお、三村建設が被控訴人との間の工事請負契約書を控訴人に呈示した事実もあること。」
以上の事実を認めることができ、右諸事実に<証拠>を併せ考えると、控訴人は、本件工事代金債権を譲り受ける以前から、本件譲渡禁止の特約の存在を知っていたと確認するのが相当である。右認定に反し、控訴人が本件譲渡禁止の特約につき善意であった旨の控訴人主張に副う<証拠>は前判示の事情に照らして措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると、結局本件債権譲渡はいずれも無効であるといわざるを得ない。
従って、控訴人は被控訴人に対しその主張の工事代金債権を有しないから、右工事代金の支払を求める控訴人の主たる請求は理由がないものとして棄却すべきである。
二、当審での予備的請求について。
(一) 控訴人が被控訴人に対し、三村建設から譲渡を受けた金五五四万八、〇〇〇円の工事代金債権を有することの確認請求は、右一、に判示のとおり、控訴人は被控訴人に対し右債権を有しないことが明らかである以上、その余の点を検討するまでもなく失当として棄却を免れない。
(二) 次に、控訴人は、被控訴人に対し、控訴人が別紙目録記載の供託金の還付を受けることにつき同意を求めているので、右請求の当否につき判断する。右供託金は、被控訴人が本件工事代金につき債権者を確知できないことを理由として弁済供託したものであることは成立に争がない乙第一〇ないし第一二号証により認められるところ、供託物の還付を請求し得べき者(被供託者)として択一的に控訴人または三村建設が指定されていることは控訴人の主張自体により明らかである。ところで、控訴人が右工事代金債権を有効に譲り受けていないことは前記のとおりであるから控訴人の右請求は爾余の点に触れるまでもなく理由がないからこれを棄却すべきである。
三、以上の次第で、控訴人の主たる請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、又当審で追加された予備的請求はいずれも失当としてこれを棄却する。
<以下省略>。
(裁判長裁判官 亀川清 裁判官 蓑田速夫 柴田和夫)